Rigaku Life
留学体験記
火と氷の国・アイスランド -火山活動が残した地形と氷河(地質調査編・第2回)

アイスランド大学の「アイスランドの地質入門」という授業で、8月に3日間の地質調査に参加しました。今回は、前回の記事に続き、調査を通して何を見て学んだかを紹介します!
※前回記事はコチラ→「火と氷の国・アイスランド -驚くほど身近な火山活動(地質調査編・第1回)」
8月15日(2日目)Reykjanes(レイキャネス)半島調査
2日目のテーマは「地溝帯の構造地質学と地熱発電」です。この日の天気もアイスランドらしく曇りと雨でした。午前は地質調査、午後にはHellisheiði (へトリスヘイジ)発電所という地熱発電所も訪れました。この発電所も含め、アイスランドの地熱発電については次回の記事にゆずり、ここでは午前の地質調査について述べたいと思います。
最初の到着地はRauðhólar(ラウドホラル)という場所です。この場所の地層は主に軽石で構成されており、一見、他の噴火跡と似た窪んだ景色が広がっていました。しかし、その形成メカニズムは一般的な噴火とは著しく異なります。rootless cones(=偽クレーター)と呼ばれる地形で、溶岩と水の相互作用が鍵となります。
実はこの地形、火山の噴火口を持たず、水蒸気爆発によって生じます。マグマが通る火道を持たないことから、通称rootless cones、直訳して“根無しの円錐”と呼ばれます。約5000年前、近くの火山の噴火による溶岩が湿地帯に流れ込みました。熱い溶岩が湿った地面と接触すると、大量の水蒸気が急激に発生し大爆発が起きます。爆発は水が枯渇するまで続き、複数回続くことにより、噴火後のような窪んだ地形が形成されました。
噴火の激しさは、水の量によって決まります。噴火が始まった時は、溶岩が大量の水と接触するため、噴火は非常に爆発的で、細粒の火山灰が発生します。しかし、時間が経過し水源が枯渇するにつれて、噴火の激しさが低下し、より粗い粒子が形成されました。

各地層では、ばらついた粒径を持つ赤色の軽石を観察することができました。また、地層で見つかった有機物を使用して、年代が分析されたそうです
次の到着地はÞingvellir(シンクヴェトリル)という国立公園でした。Þingvellirは、大西洋中央海嶺の上、北米プレートとユーラシアプレートの境界である地溝帯の中にあります。公園内に入ると、まず切り立った大きな峡谷が目に入ります。Þingvellirの中でも最も大きいこの峡谷はAlmannagjá (アルマンナギャ)と呼ばれ、大陸移動を示す亀裂や断層の一つです。
約1万1000年前に始まった後氷期に氷床が後退し、マグマの生成が活発になりました。この地の岩石、たとえばハイアロクラスタイトや枕状溶岩など、急冷されてできる種類のものは、このときの氷河の融解水とマグマの接触によるものです。また、約 1 万年前の完新世初期には、Þingvellirで大規模な溶岩流が発生しました。そのため、Þingvellirでは完新世の溶岩が広範囲に分布し、その影響でハイアロクラスタイトと枕状溶岩が周辺部に広がっています。

最大の峡谷Almannagjá 。Þingvellirの岩石は、ほぼすべてがハイアロクラスタイトや枕状溶岩を含む火山岩です。約 1 万年間の継続的な地溝形成と地殻変動により、谷底は約 40 メートル低下しました。現在も地殻変動は続いており、地溝の形成による変位や変形が生じています
8月16日(3日目)Sólheimajökull(ソゥルヘイマヨークトル)調査
最終日のテーマは「氷河」です。ようやく晴れましたが、氷河での調査ということで、何枚も重ね着をして出発しました。最終日の観察場所はSólheimajökull(ソゥルヘイマヨークトル)という氷河です。バスを降りて遠くを見ると、氷河地形に特徴的なU字型の谷が広がっていました。山の側面を川が侵食すると断面がV字型の谷になるのに対し、氷河が侵食するとその重みでU字型の谷になります。

調査途中で、突然風が冷たくなり、雨が降り始めました。氷河付近では、天気が変わりやすいため、訪れる機会がある際は気を付けてください^^
少し歩くと、氷河の末端に着きます。ここでは、氷河によって山が削られて運ばれた石や砂利などが堤防のように堆積した地形がみられました。この地形をモレーンと呼びます。また、もともと氷河があったところに水が溜まった氷河湖も観察することができました。
1960 年代から 1990 年代にかけて、北半球の様々な地域で一時的な寒冷化が起こりました。そのとき、この地域では氷河が発達しました。しかし、それ以降は後退が続いており、2001 年から 2013 年にかけては特に急速に退きました。氷河湖は 2009 年に形成され始め、以来どんどん大きく、深くなっています。現在は、約60メートルの深さに達し、今後も氷河が後退し続けるにつれて、さらに拡大すると予想されています。

氷河湖。右の写真手前に、カヌーが小さく確認できるでしょうか?氷河湖がいかに大きいかがわかります
アイスランドは比較的暖かく、氷は氷点、または氷点に近い温度を持ちます。そのため、氷河の下と内部には液体の水が存在します。Sólheimajökullでは、水の滴る音が聞こえ、融解水が氷河湖に流れ込むのが見えました。氷河湖は乳白色から灰色でした。
モレーンで観察できる岩石の多くは、マグマが急速に冷却されてできる火山ガラスです。火山ガラスは、噴火後しばらくして氷河に埋もれ、運ばれた後、氷河の先端で厚い黒い層を形成してモレーンの一部となります。この堆積物は氷河の融解に影響します。堆積した層が薄いと、太陽光を完全に遮ることができず融解が速くなり、厚いと融解が遅くなります。
Sólheimajökullには、氷河による堆積物や地形が豊富にあったため、以下一部紹介したいと思います。
① 条痕のある岩
基盤岩の上を氷河が移動してできた「条痕」と呼ばれる線のある堆積岩を観察しました。これは、地滑りや土石流など、氷河作用によって形成される典型的な堆積物で、氷河の前進または後退を裏付けています。
② 2種類の堆積物
平坦な堆積物(写真左)と褶曲した堆積物(写真右)がありました。平坦な堆積物は、氷河がない時期に融解水によって均一に堆積し、そのままの状態で現在観察されると考えられます。一方、褶曲した堆積物は氷河の前進や後退によって圧力が加わり変形したと考えることができます。
③ ドラムリン
氷河から少し離れたところに、ドラムリンと呼ばれる長円形の丘がありました。ドラムリンは、昔の堆積物が氷河の前進に巻き込まれて変形し、その後氷河が後退したあとに取り残された地形です。ドラムリンの存在は、その場所がかつて氷河で覆われたということを意味するため、氷河後退の証拠となります。世界中に多くのドラムリンがある一方、小さなドラムリンはアイスランド特有です。
ようやく3日間にわたる地質調査が終了しました。アイスランドの南西部を少し覗いただけですが「面白い!」と感じた点があまりに多く、アイスランドには、まだまだ興味深い地形や地質がきっと隠れていると思いました。次回は、アイスランドの地熱発電について紹介いたします。もし他にも「アイスランドのこれが知りたい!」等々ございましたら、理学部公式Xまでご連絡いただけると嬉しく思います^^
(文・大久保結実)