Rigaku Life

留学体験記

火と氷の国・アイスランド -驚くほど身近な火山活動(地質調査編・第1回)

 私はこの秋学期、アイスランド大学で「アイスランドの地質入門」「地熱発電」「氷河時代の環境」「アイスランド語」という四つの授業を履修しています。8月にはアイスランドの地質入門の授業で、3日間の地質調査に参加しました。今回は、その調査を通して何を見て学んだかを、1日ごとに分けて紹介します!


8月14日(1日目)Reykjanes(レイキャネス)半島調査

Reykjanes半島での1日目の調査地点。赤線が移動ルート、青色が調査地点(© Google)

 

 調査日初日のテーマは「火山活動と地溝帯の構造地質学」です。曇りと雨で肌寒かったため、しっかりと着込んで、まずアイスランド大学に向かいます。大学は首都Reykjavík(レイキャビク)にあります。Reykjavíkは、2~4億年前に形成された灰色の玄武岩を基盤岩として持ち、その上に氷河の作用を受けた岩石が堆積しています。


 みんなが集合したらいよいよ、アイスランドの南西部、Reykjanes(レイキャネス)半島に向けてバスで出発です。ちなみに、授業を履修している生徒は約40人。「アイスランドの地質入門」は交換留学生のみが履修できる授業なので、アイスランド人はいませんでした。ヨーロッパ出身の学生が多く、南北アメリカから2人、アジアからは私と中国人の2人です。

 

全員の集合写真。真ん中で横になっている方が、先生です^^「地学を勉強するためにアイスランドを選んだ」という学生が多かったです


 途中、Hafnarfjörður(ハフナルフィヨルズゥル)という街とその街から始まるRoad42という道を通ります。Hafnarfjörðurは美しい港街で、約8000年前の噴火で高地から流れてきた溶岩流の上にあります。続いてRoad42は、シリカの含有量が多く、粘性が高い溶岩から形成されています。Hafnarfjörður とRoad42を含めたこのエリアでは、噴火活動が活発になる期間と休止期間のインターバルが最大約800年と言われており、いったん活発な期間に入ると300~500年続きます。1151年に大きな噴火の記録があり、しばらくした後に落ち着き、近年までの間に休止期間を挟んでいました。しかし、2019年から火山活動の前兆が続いているため、将来溶岩流が再び町を駆け抜けると予想されています。政府が断層や亀裂を考慮してインフラを建設しているとは言い切れませんが、一方このような中でも地震には耐えられるそうで、噴火についても街に危険がすぐに迫っているというわけではないそうです。

 最初の地点はSveifluháls(スヴェイフルハルス)という場所です。Sveifluhálsは、主に玄武岩質のハイアロクラスタイトで構成されています。ハイアロクラスタイトとは、氷河の下で発生した噴火によってできる角礫岩(かくれきがん)で、溶岩が水や氷と接触して急速に冷却され、破砕してできます。この地域のハイアロクラスタイトの層は、ガスが少なく粘性が低い玄武岩質マグマが複数回噴火することで、形成されました。

 

玄武岩質のハイアロクラスタイト。多孔質で、石一粒ひとつぶは数ミリメートルから数センチメートルの平らで角張った破片です


 ふたたびバスでしばらく移動すると、強い硫黄の臭いが!次の地点はSeltún(セルトゥン)という地熱地帯です。広い学校と同じぐらいの大きさのこのエリアには、地熱により泡立つ泥水の池がたくさんあり、大量の蒸気がもくもくと立ち昇っています。数センチほどの噴気孔もたくさんあり、そこからは煙が出ています。

 

表面のカラフルな色合いは、鉱物によります。鉄(赤色)、硫黄(黄色)、粘土(灰色)など、さまざまな鉱物が沈殿しています


 ここは、①熱源、②水源、③亀裂を全て兼ね備えているため、地熱地帯となっています。水が亀裂をたどって地中の熱源に着くと温度と圧力が高くなり、熱水として地表面まで移動します。地震により新しい地熱地帯が形成されたり、堆積物や沈殿した鉱物で地面の亀裂が塞がれたりすることがあります。地熱活動は雨量にも左右され、最近では雨が多いため、通常よりも温泉が多くなっているそうです。この地域の基盤となる岩はハイアロクラスタイトで、上昇する蒸気によって簡単に変質します。


 次はGrænavatn(グライナヴァトン)という場所です。Grænavatnには、爆発的な噴火からできた深さ約40mのクレーター湖があります。この噴火がどのように引き起こされたかについては2つの説があり、マグマ源が水と接触して爆発した、または、近くの亀裂が地熱地帯を覆い爆発したと考えられています。

 



 Grænavatnからバスで南に進むとEldborg(エルドボルグ)というクレーターに着き、登ることができます。噴火の最中、ガスにより溶岩が爆発することがあり、空いた空間にさらに火山灰が堆積するとクレーターが形成されます。このクレーターは、4000~800年前の噴火後、地面に落ちる前に部分的に固まった軽石、火山灰などでできています。

 

Eldborgのクレーター。石の赤色は、噴火中および後に発生した鉄の酸化によるものです


 最後はNátthagi(ナウトゥハギ)という場所。この地域では2019年12月から地震活動が活発で、マグニチュード4~5の地震が多発しました。2020年1月中旬、地震活動によりマグマの動きが確認され、Nátthagiと近くのGrindavík(グリンダヴィーク)の両方でマグマが膨張していることが明らかになりました。2021年3月から9月まで5か月間噴火が発生し、2022年8月には2回目の噴火が約2週間、2023年7月から8月には三回目の最後の噴火が2か月間発生しました。
 この溶岩流を形成したマグマは、深いところに起源を持つ原始的なものでした。溶岩は黒色で、いくつかの小さな緑色の結晶があります。主に輝石とカンラン石の結晶を含む玄武岩です。

 

あたり一面に広がる溶岩。手前に小さく、人の姿が確認できるでしょうか?溶岩が完全に冷えるまでには数十年かかることがあります

 

 このような流れで1日目は無事に終了しました。アイスランドの活発な火山活動、この国を訪れる前から何となくは知っていたものの、その痕跡を実際に見て学び、雄大さに圧倒されました。実はその後8月22日に、今回訪れたReykjanesで、昨年12月以降6度目となる噴火が発生しました。私も噴火の様子を見に行くことができ、一生忘れられない景色を目の当たりにしました。

噴火した次の日の夜に友達が撮影した写真。今回の噴火による大きな被害はありませんでした。噴煙は首都Reykjavíkでも確認することができました


 2日目以降の調査も今後公開予定です!もし他にも「アイスランドのこれが知りたい!」等々ございましたら、理学部公式Xまでご連絡いただけると嬉しく思います^^

(文・大久保結実)

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