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一瞬の光の正体は

橋口 未奈子

「流れ星に願い事を3回唱えると願いが叶う」。

夜空を見上げて願いをかけた経験は、誰しも1度はあるのではないだろうか。この言い伝えは、「神は下界の様子を眺めるため天界を一瞬だけ開けることがある。その際に落ちてきた天の光が流れ星で、その一瞬の間に願い事を唱えれば神の耳に届いて叶えてくれる」というキリスト教の考えが由来とされる。一瞬と言われる通り、流れ星の光は1秒足らずで消えてしまうため、願い事を3回唱えるのは至難の業である。

街中で流れ星を見るのは難しいが、暗い場所では1時間に2、3個、流星群の時期は桁外れの数を見ることができる。特に2001年11月のしし座流星群は、筆者の記憶に強く残っている。天球のある点から放射状に流れ星が現れるのが流星群だが、この時は四方八方で星が流れてどこを見て良いのかわからないほどだった。一瞬で消えるとはいえ次々に現れるものだから願い事をし放題だったはずなのに、それどころではなくただ食い入るように夜空を眺めたのを良く覚えている。

流れ星とは、宇宙空間にある塵が地球の大気と衝突し光を放つ現象で、地球が彗星の軌道を交差する際、彗星の塵がまとまって地球の大気に突入して生じるのが流星群だ。一方、彗星ではなく小惑星を起源とする流れ星がある。2020年7月、一際大きい流れ星 (火球)として落下した習志野隕石は記憶に新しい。必ずしも大きな光が目撃される訳ではないが、地球に飛来する隕石の多くは小惑星の欠片と考えられている。そして、隕石には約46億年前の太陽系誕生時の記録を残しているものがある。一見、道端で見かける石と区別がつかないが、1/1000ミリのスケールで観察すると、原始太陽系円盤 (太陽系誕生時、原始太陽周囲にガスや塵が集まって形成された円盤)の中で、鉱物の液滴が冷却されて形成したコンドリュールという物質や、惑星になる前の小天体に水が存在した痕跡などが見られる。こうした始原的な隕石は最大で5%ほどの有機物を含み、アミノ酸など生体関連分子も検出されていることから、地球生命誕生のきっかけになった可能性も挙げられている。

1969年オーストラリアに落下したマーチソン隕石は最も研究されている隕石の1つで、有機物を豊富に含むため、隕石有機物の研究を飛躍的に進歩させた試料である。マーチソン隕石は落下量が非常に多く(合計約100 kg!)、当時まるでシャワーのように降り注いだそうだ。現地の人は何が起こったか分からず願い事どころではなかっただろうが、宇宙由来の有機物を含む石が空から大量に降ってくるという研究者にとっては極めて貴重な出来事だ。一瞬しか開かないらしい天界との扉から落ちてきた光。読者の皆さんがもし大きな流れ星を見つけたら、素早く願い事を唱えつつ、そこにどのような物質が含まれ、どのような情報をもたらしてくれるのか、ぜひ考えてみてほしい。

橋口 未奈子

地球惑星科学科 大学院環境学研究科地球環境科学専攻助教

1985年生まれ。2013年北海道大学大学院理学院博士課程修了。物質・材料研究機構、宇宙航空研究開発機構(JAXA)にてポストドクター、九州大学惑星微量有機化合物研究センター(現惑星微量有機化合物ラボ)特任助教を経て、2020年より現職。専門は宇宙化学、主な研究対象は地球外有機物。

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