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ホイップクリームとマグマ

並木 敦子

唐突だがケーキについてのクイズを出したい。ケーキの上にのっているホイップクリームは、花柄のようなかたちを保つ固体っぽいものである。しかし、よく考えてみると泡立てる前のクリームはドロッとした液体だ。そこに、もっと柔らかい空気を混ぜて泡立てると硬いホイップクリームになる。なぜか。お悩みの方もいらっしゃると思うので、答えにたどり着く前に、最近の地球科学の話題を紹介したい。ハワイ島では長くキラウエア火山の噴火が続いていた。そのキラウエア火山以外にも火山はある。2022年11月、そのうちの一つであるマウナロア火山が38年ぶりに噴火した。

火山で噴火するマグマとホイップクリームを似ていると思う人は稀だと思うが、実は類似点がある。どちらも気泡を含んでいるのである。火山の噴火は溶岩が空高く放出されて、なんだかダイナミックであるが、あのダイナミックさを生み出しているのはマグマ中に含まれる気泡である。岩石が融けてできるマグマは、実は周囲の地殻物質と比べて重く、かつ、圧力が変わってもあまり体積が変わらないので、勢いよく地表に吹き出るのは難しい。しかしマグマ中に気泡があると、全体としてマグマは軽くなるし、地下から地表に出てくる時に、圧力低下によって急に膨張できるようになる。これがマグマのダイナミックな噴火の原因だ。気泡はマグマの変形のしやすさにも影響を与える。気泡が変形するときには、気泡を含むマグマは全体として変形できるので、気泡がない時よりも柔らかくなる。気泡が表面張力によって球形をしている時はマグマの変形できる部分が減って、気泡がない時よりも硬くなる。この性質が溶岩流の流れにとって重要である。

ホイップクリームも実は似たような状況で、気泡が変形できない条件では、気泡と気泡の間の狭い領域に押しやられたクリームしか変形できないので、ホイップする以前の液体状のクリームより固体のように硬くなっているのである。

というわけで、前出のクイズの答えは納得してもらえただろうか。このように固体か液体か微妙なものの変形を考える分野はレオロジーとよばれるが、食品は意外とレオロジーを考えるのに適している。たとえば、カレーは固体か液体か、とか。ケーキを食べながら、ハワイ島の噴火に思いを馳せるのは筆者くらいだと思うが、日ごろの食事の食感の違いが何に起因しているのか、考えてみるのも面白いかもしれない。

並木 敦子

地球惑星科学科 大学院環境学研究科地球環境科学専攻准教授

1973年生まれ。2002年東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。金沢大学、カリフォルニア大学バークレー校、産業技術総合研究所にてポストドクターなど、東京大学助教,広島大学准教授を経て2021年より現職。主な研究分野は火山学。専門はマグマのレオロジー。

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