この写真は落葉で黄色く染まった12月のヒノキ林の地面に円筒と包丁を突き立てたときの一枚である。地表はヒノキの細い根が織り込まれてマットになっていた。試しに地面に刃を入れると、想像よりもふかふかでケーキのように切り出せた。中には厚さ10cmに及ぶものもあった。根のマットの中で、小さな動物たち(土壌動物)が密かな営みを紡いでいるように感じた。
根のマットには、学部4年次、新型コロナウイルス感染症の第一波が収まった頃、同期のヒノキ林調査を手伝ったときに出会った。根のマットは庭のプランターや草原にあるイメージだったので、森林にあることに驚いた。ただ、自分の研究を進める中で、この出会いはいったん忘れ去られた。卒業研究では、土壌の肥沃度を支え、大気中の炭素を地下に隔離して気候変動の緩和にも役立つ土壌有機物について、その量や質と森林の立地条件との関係を調べていた。だが、コロナの影響と自分の勉強・努力不足が重なり、十分な分析も実施できず、悔しさを抱えて博士前期課程に進学した。
そんな折、土壌動物が枯れ葉などを食べて、その糞が土壌有機物になることを本で読み、私の頭にはあの時の根のマットが思い浮かんだ。そこで、同期に「根のマットの中にいる土壌動物が面白いかも」と遊び半分でプレゼンしてみた。昔から私は昆虫など小さな動物が好きだったこともあり、気晴らしでもあった。だが、その話は同期の指導教員を通じて私の指導教員に伝わり、最終的には、メインテーマの土壌有機物に加えて、このテーマに挑戦する機会をいただけた。
とはいえ、土壌動物の研究は片手間で行うものではなかった。まず、根のマットの中で土壌動物は落ち葉や根を食べて土壌有機物を生み出すという作業仮説を設定した。しかし、学べば学ぶほど、落ち葉や根だけでなく、菌や他の動物、糞を食べるなど種類によって異なる役割を担うことで森林の物質循環を支えていると気づいた。根のマットで生きる土壌動物と土壌有機物を単純につなげて議論することは妄想でしかなかった。また、採取した根のマットから土壌動物を取り出し、顕微鏡と分類図鑑をもとに1個体ずつ種類を同定する必要があった(全部で2万個体以上!)。これをメインテーマである土壌有機物の研究と同時並行で進めなければならなかった。
なんとか研究を進めた結果、根のマットは、新鮮な落ち葉に付着した菌類を食べると考えられる地表性のトビムシの重要な住み場所であることが判明した。また、その捕食者と考えられる動物も多く確認され、根のマットは土壌動物の数やメンバー構成を左右する重要な存在だと明らかにすることができた。あの日、根のマットの中で土壌動物が密かな営みを紡いでいると感じた直感は間違っていなかった。ただ、その営みは私が想像していたよりもはるかに複雑で多様だった。根のマットは、土壌に生きるものたちと話をする機会を与えてくれたのだ。

