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研究室に行ってみた!

人類進化の謎が眠るキーストーン?石器に秘められた私たち祖先の生き様とは

 はるか昔、私たちの祖先はどのように暮らしていたのでしょうか。どのような場所に住み、なにを食べ、どのように人や他の生物と関わり合っていたのでしょうか。名古屋大学大学院環境学研究科地球史学講座の門脇誠二先生は、遺跡や石器の調査を通して、文化的側面から人類の進化を研究しています。

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 石器、というと同時に、当時の狩猟や食べ物の加工のようすを知る手掛かりになる、と考える方は多いかもしれません。確かにそれも重要ですが、実はそれだけではありません。人類の進化に関わる新たな知見が石器から得られるかもしれません。

石器
実際に狩猟に使われていた石器。動物の骨と一緒に発見されたそうです。軽いものから重いものまで大きさはバラバラでしたが、どれもとても鋭利で驚きました。

 まず、石器が教育のきっかけになったことが挙げられます。生きるためにゾウなど大型の動物たちを狩猟しなければいけないとなると、石器の加工方法や利用方法を仲間で共有する必要がありますよね。実際に、石器の使用が始まった時期と脳が急に肥大する時期がグラフのように一致します。このことから先生は、石器を通した教育や学習の必要性が高まるとともに、世代を経るごとに人類の脳が大きくなる傾向が強まり、さらには言葉の発展にもつながった可能性があると指摘します。

石器と人類進化

石器づくり出現のタイミングと、人類進化に伴う脳と大臼歯のサイズ変化および直立二足歩行の発達度合いを示す概念図(馬場 2005を改変)。石器の出現後に、脳の拡大が顕著になり、大臼歯が縮小することに注目

 また、石器は交流や交易のきっかけであったことも挙げられます。石器の化学組成を調べ石材の産地を特定したり、石器をまだ使っている集団の民族調査をしたりすることにより、石器を介した他の地域集団との交流の可能性が明らかになりました。例えば、オーストラリアのアボリジニでは、近くの石材の産地ではなく、「聖地」と考えられている遠い産地からわざわざ石材を調達していたことがわかっています。これは、「聖地」という信仰の意味合いだけではなく、調達先に住んでいる人々との交流のためでもあったと考えられています。アボリジニが暮らす乾燥した地域では食料の確保が難しく、何かあったときにお互いに助けあえるようネットワークを作っていた可能性があるのです。

Kadowaki
 このように、石器は私たちの祖先となる人類の文化的、社会的側面においてとても重要な役割を果たし、その結果人類の進化に影響を与えたと考えることができます。石器がなければ、私たち人類はまた違った進化を遂げていたかもしれません。先生は、「遺伝子などとは違って、人から習ったことは血がつながっていない人々のあいだでも広く共有されて伝わってきた。人の進化が複雑な情報伝達システムを伴う文化と共に歩んできたプロセスを、調査を通して明らかにしたい」と語ってくださりました。石器が何を物語っているのか、祖先の営みに迫る研究に、今を生きる私たちとのつながりを感じ、とても興味深く思いました。

(文・大久保結実)

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