Rigaku Life

研究室に行ってみた!

「個ニシテ全 全ニシテ個」をシミュレートする数学

chase

「今日、どんな服を着ていこうかな?」

 自分で選んだその服も、実は無意識のうちにたくさんの影響を周りから受けているとしたら驚きですよね。実際、町中に出かけてみると同じような服を着た人に出会った、という方も多いのではないでしょうか。気候や行先、会う人、そのときの流行り。私たち個人の日々の選択は、常に集団の動きに繋がっています。

 相手を追いかけ、相手から逃げる。シンプルな「追跡と逃避」の問題も、個の動きと集団の動きのつながりを見出す面白い問題です。名古屋大学大学院多元数理科学研究科の大平徹先生は、数学の観点からこうした話題を追究しています。

Prof. Ohira

名古屋大学大学院多元数理科学研究科・大平徹(おおひらとおる)教授

 

 網目状の道があるとしましょう。その上を、捕まえる役の点(青色の点)と逃げる役の点(黄色の点)が同じスピードで動きます。条件として、捕まえる点は自分から最も近い逃げる点に近づこうとします。同様に、逃げる点は最も近い捕まえる点から遠ざかろうとします。捕まえられた逃げる点は消え、逃げる点の数はどんどん減っていき、逃げる点の数がゼロになったら終了です。

 

【条件】追跡者(青)=100、逃避者(黄)=1000

 

 こうして集団のモデルを組み立てると、たとえばどの方法だと短い時間と少ない人数で追跡を終えられるか明らかにすることができます。個々の点は自分の条件に従っているだけなのに、まるで集団で連携しているように見えます。ここから効率的な集団行動の条件を求められるのも驚きですね。

 また、同じルールでも追跡者と逃避者の数を増やし、比率を変えると下のようになります。規模を変えただけですが、集団のパターンから受ける印象が異なるのは面白いと思いませんか。

 

【条件】追跡者(青)=1000、逃避者(黄)=19000

 

 一方現実では、ここまでシンプルなルールに基づいているとは限りません。実際に起こっていることを完璧に表現しようとすると、動きの条件がどんどん付けくわえられていきます。しかしそうすると、今度は複雑すぎて、個々の動きと集団の動きの間にある規則性が見えづらくなってしまいます。シンプルにして規則性を見出すか、条件を足して現実に近づけるか。この塩梅は、まさに数学者のテイストを決めるポイントだと大平先生は言います。

「テイストは人によります。個性ありますよね。私は、現象からくるものに対して抽象化してみよう、ということを比較的やります。…ミュージシャン的な感覚で考えることが多いです」

数学者の塩梅による「個と集団」また「追跡と逃避」の研究はどこまでも広がりがあるようで、とてもワクワクしました。今後、量子力学やサイバー空間への応用も考えられているようで、ますます楽しみに思います。

 

(文・大久保結実)

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