Rigaku Life

研究室に行ってみた!

細胞に欠かせない1本の”毛” 一次繊毛の役割とその退縮・伸長メカニズムとは?

①の写真の赤い丸で囲われたアンテナのような構造物、何でしょうか?これは一次繊毛(いちじせんもう)といい、人などの脊椎動物のほぼ全ての細胞に1本ずつ存在しています。とても小さいたった一本の毛。ですが、たとえば細胞の外からの情報を細胞内に伝えるなど、重要な役割を果たしています。名古屋大学理学部の生体機序論グループの花房洋先生はこの一次繊毛に着目して研究しています。

一次繊毛

一次繊毛は、②の写真では緑色(中心体)と赤色(微小管)に光っている部分を組み合わせた箇所になります。③の図のように化学物質や光、圧力などを感じるアンテナとして働いています。また最近の研究から、一次繊毛は細胞分裂がうまくいくようにチェックしていることがわかってきました。

細胞分裂にはいくつかの段階があります。大まかに分けると分裂をしていない静止期と、分裂する増殖期があります。④の左側の写真は静止期の細胞で、一次繊毛が形成されていることが分かります。しかし、右側の写真のように増殖期の細胞では、一次繊毛が縮んでほぼ無くなってしまいます。

一次繊毛が形を変える仕組みについて、もう少し詳しく見てみましょう。この仕組みでは、微小管に沿って運動するキネシンとダイニンという二つのモータータンパク質が重要です。まず⑤の図のように、キネシンが、ダイニンおよび様々な分子が結合した積荷を持って、一次繊毛の根本から先端に向け、微小管に沿って移動します。そして先端に辿り着くと、⑥の図のようにダイニンを放ち、放たれたダイニンは微小管を回収しながらまた一次繊毛の根本に戻っていきます。このような輸送を通して、一次繊毛はどんどん短くなり、退縮します。

花房先生のグループは、化学反応を促進する働きを持つ酵素の一つ、分子A(LRRK1)と、それと連動して機能している分子B(NDEL1)が、この輸送に関わっていることが明らかにしました。分子A とB は、一次繊毛の根本で細胞内にいたダイニンを集めること、また、集めたダイニンをキネシンとくっつけることに重要な役割を果たしていたのです。分子A とB が集めてくっつけたダイニンとキネシンが先端まで移動し、帰りにダイニンが微小管を回収することで、一次繊毛は退縮していたのですね。

私は、今この瞬間も体の中で、このように一次繊毛が形成、退縮し、機能していると考えると、生命の神秘を感じます。一次繊毛のまだ解明されていない仕組みや、医療への応用の研究が現在も進められているそうで、とても楽しみに思いました。

(文・大久保結実)

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