Rigaku Life

研究室に行ってみた!

新種の宝石箱!?多様でユニークなゴカイの生態とは

 「ゴカイ」という生物をご存知でしょうか。ゴカイは「多毛類」と呼ばれる環形動物の一群に属し、体が節に分かれています。ゴカイは、管を作って暮らすもの、砂の中に潜るもの、海底を歩くものなど、多様な生活様式を示します。さらに、わずか二週間ほどで一生を終えるものもいれば、五年ほど生きるもの、他の生物と共生するものもあり、種ごとに実に多様な生態が見られる興味深い生物です。名古屋大学 大学院 理学研究科附属 臨海実験所の自見直人先生は、これまでになんと93種もの新種のゴカイを発見し、その不思議な生態を研究しています。

自見直人先生(名古屋大学 大学院 理学研究科附属 臨海実験所)

 

 下の写真を見てみてください。これは、先生が発見された新種の一つであるウロコムシ科のゴカイ、「イッスンボウシウロコムシ」です。体にウロコのような構造を持つのが特徴です。ヤドカリの貝に居候して生活しており、写真では偶然表に出ているところが観察できます。

イッスンボウシウロコムシ(写真:鳥羽水族館)

 

 そして、次の写真を見てください。よく見ると、矢印の先に、もう一つ小さな個体が乗っているのが分かります。

イッスンボウシウロコムシ(写真:鳥羽水族館)

 

 実はこれ、小さな方はオスで、大きな方がメス。ヤドカリの貝という限られた空間で一緒に生活するため、生殖に関わらない機能を最小限に抑えたオスの方が小さくなると考えられています。チョウチンアンコウなどにも同様の特徴が見られますが、ウロコムシにおいてオスが小型化することが発見されたのは、これが初めてだそうです。イッスンボウシウロコムシという名前も、この小さな雄にちなんで付けられており、そのユニークな生態から、先生にとってもこれまでの新種発見の中で特に印象深い存在だそうです。

 もう一つユニークなゴカイをご紹介しましょう。舞台は深海、海の底に沈んだ鯨の骨です。実はこの表面にも、骨の栄養を取りながら暮らすゴカイがいます。これは、「ホネクイハナムシ」です。口や肛門を持たず、体の一部から酸を分泌して骨を溶かし、その中に含まれる有機物を吸収して生活します。ライフサイクルはわずか二週間で、海底の鯨の骨においてのみ成長、繁殖する面白いゴカイです。

ブラジルホネクイハナムシ(Osedax braziliensis)(Fujiwara et al. (2019) ZooKeys)

 

 自見先生がこれらのゴカイに興味を持ったのは、高校生の頃でした。当時から生き物が好きで、海に近い環境を再現した水槽を作り、さまざまな生物を飼育していました。あるとき、拾ってきた牡蠣の殻から、赤く細長いニョロニョロとした生物が漂っているのを見つけました。生き物に詳しい自負もありましたが、それを見るのは初めて。不思議に思い図鑑で調べてみたものの、なかなか見つからず、「これは何だろう」と疑問を抱いたことをきっかけに、その生物への興味をますます深めていったそうです。

 先生は「自分でフィールドに出ることが大切」と、現在でもフィールドワークを重視しています。ゴカイは、生きたまま持ち帰ることが難しいこともあり、現地で顕微鏡観察を行い、エタノールで固定してから持ち帰るといった工夫が必要な場合があります。先生はフィールドワークについて、こうした実務的な理由に加え、「どういうふうに生きているかを現地で見て、なぜそのような暮らし方をしているかを考える」と、対象を現場で直接観察することの大切さについても話されていました。私自身も実際に氷河を訪れた際に同様の感覚を覚えており、こうした体験はフィールドワークを基盤とする研究に共通するものなのかもしれません。

 現在では、地質学者とも協力し、南極や深海などさまざまな場所でゴカイの採集を行っているそうです。例えば、深海にしか生息しない種には特異で興味深い特徴が見られることもあり、先生の探究のフィールドは尽きることがありません。実際に、「一生の仕事分の新種がもうすでに手元にあります。しかし、思ってもみないような面白い種を見つけたい。」と、笑顔で話されていました。さらに、「そこに何がいて、どのような分類がされているのか分からなければ、興味関心は生まれにくく、自然保護や生物多様性の保全にもつながらない」と、分類学研究の重要性についても指摘します。

三重県にある菅島臨海実験所。実験室では、遺伝子を使ってDNAやアミノ酸の配列を比べ、生物どうしの進化的な関係を明らかにする「分子系統解析」や、暮らす場所の違い(貝の頭の近くか足の近くかなど)によって体内のアミノ酸の安定同位体比が変わることを利用して、どこで生活しているのかを推定する研究など、さまざまな研究が行われています

 

 最近、先生はiNaturalisthttps://www.inaturalist.org/)という、写真と種をアップロードするインターネットプラットフォームにもゴカイを投稿しているそうです。iNaturalistには、まだ完全ではありませんがAIによる識別のサポートもあります。正しいデータを蓄積することで世界中のゴカイを共有できるようになるため、今後の活用が期待されますね。誰もがアクセスできるので、ぜひ覗いてみてください^^

 いかがでしたでしょうか?私は特に、ヤドカリなど身近な生き物の中に、このような興味深い別の生き物が潜んでいることに驚き、これまで知らなかった多様でユニークなゴカイの生態について、さらに調べてみたいと感じました。また、今後どんな面白い種が発見されるのか、とても楽しみに思います。もし気になる点やご質問、さらに「この研究室ではどんなことをしているの?」「この研究についてもっと知りたい!」などご関心がありましたら、理学部公式Xまでご連絡いただけると嬉しく思います^^ 

ありがとうございました。

(文・大久保結実)

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