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研究室に行ってみた!

波動方程式に解はある?数学理論から読み解く、「波」の複雑さと面白さ

 音や海など、私たちの生活に身近な存在である「波」。よく物理学の研究対象となりますが、波動方程式として記述することで、実は数学理論とも深く結びついています。例として最近では、長年未解決であった「掛谷予想」という問題の三次元版が解かれたことが大きな話題となっています。この問題は、波動方程式を理解するために使われる調和解析と深く関係しており、長年多くの数学者が挑戦してきました。調和解析とは、複雑な波をたくさんの単純な波に分解して考える数学の方法です。この考え方を使うことで、波が空間の中でどのように広がるのかを詳しく調べることができ、名古屋大学大学院多元数理科学研究科の木下真也先生は、まさにこの調和解析を用いて、「分散型波動方程式」の研究を行っています。

 ここで、分散型波動方程式について少し見ていきましょう。

 まず、時間とともに波が広がっていく様子を思い浮かべてください。波が弱いときは、きれいな波形が保たれたまま広がっていきます。しかし、波が強くなるにつれて、振幅が急激に大きくなったり、波形が歪んだり、思いもよらない複雑な振る舞いが現れることがあります。このように、波の強さ(入力)と波の応答(出力)が比例しなくなる性質を非線形性と呼びます。非線形性が加わると、方程式の解は一気に複雑化し、従来のように単純な式や基本的な波の重ね合わせだけでは表せなくなります。

 このような方程式は、非線形項を含む分散型波動方程式の一例で、調和解析を用いて考えることができます。調和解析では、波を周波数(フーリエ変換)に分解して考えるフーリエ解析を使い、関数を「たくさんの波の集まり」として分けて考えます。木下先生はその中でも特に、周波数がある特定の条件を満たすような場合の理論「フーリエ制限理論」や、フーリエ制限理論を方程式の研究に適用することを可能にする「フーリエ制限ノルム法」という技法を使って、非線形性を持つ「非線形項」を評価しています。そして、

「波動方程式の解が本当に存在するのか?」
「もし存在するなら解は一意に定まるのか?」
「その解は時間とともにどのように振る舞うのか?」

といった問題を研究しています。

 波動方程式を理解する上で基本となるのが、線形シュレディンガー方程式です。

 これは量子力学にも登場する方程式ですが、数学的には「波がどのように広がっていくのか」という分散性をもつ波動現象を記述できます。

 方程式の右辺 F(u) は、実部・虚部を含む項、絶対値、掛け算、指数(べき)など、非常に多くの形が考えられます。実際の波動現象では、方程式の右辺 F(u) に非線形項が入る場合が多々あります。

 木下先生は特に、F(u)= u2 ,u3 ,u4 ,,,といった自然数乗の非線形項、そして「λ = 実数」の場合の波動方程式を対象とし、それぞれどのような調和解析の手法を用いれば評価できるのかを研究しています。様々な調和解析の手法がある中で、「どの項にどの手法を用いるか」という点が最も難しく、木下先生は、もともと幾何学から生まれた不等式を組み込むという工夫を特に取り入れているそうです。例えば、Loomis–Whitney不等式という幾何学的な視点を取り入れることで、非線形項の構造を正しく反映させた評価ができるようになります。

 さらにこの研究では、波が速くなる、つまり高い周波数の成分が増えるほど、方程式の解析が難しくなるそうです。確かにゆるやかにうねる大きな波よりも、尖った細かいさざ波のほうが、動きが複雑で予測しにくそうですね。細かく振動し、様々な周波数で構成された波では、「特異性」と呼ばれる、ある一点で波が非常に高く、+∞に近づくような振る舞いが生じる可能性があり、解の性質を評価することがいっそう難しくなります。こうした問題は方程式の非線形性と深く結びついており、理論解析において特に困難な部分の一つです。

 一方で木下先生は、こうした複雑さそのものにも魅力を感じています。

「物理的な背景をもつ方程式には、理論的に面白い部分と難しい部分が共存していて、そういうところが‟うまくできている” と感じる」

と話し、自然界がもともと持つ構造と、数学的な解析の両方に面白さを見出しています。

 木下先生は最近の研究において、時間が十分に経過した後の解の振る舞いが、解析に基づく自身の予想と実際の結果とで食い違う例を経験されたそうです。そこで今後は、数値計算によって具体的なデータを与えることで、新たな解析のヒントが得られるのではないかと考えているそうです。将来、波動方程式の研究においてどのようなことが明らかになり、そしてどのような方面と結びついていくのか、とても興味深いです。

 私は今回の取材を通して、初めて波動方程式を数学理論の観点から考える機会を得ました。解の存在や一意性を確かめることは、数値計算の正当性を高めたり、計算に含まれる小さな誤差が結果に大きな影響を及ぼさないことを保証したりするなど、重要な応用的意義を持っています。しかしそれ以上に、私はこれまで「波動方程式の解はそもそも存在するのか?」という根本的な問いを意識したことがなく、方程式そのものを理論的に理解していく過程に強い魅力を感じ、基礎からさらに深く学んでみたいと思いました。

 久しぶりの「研究室に行ってみた!」シリーズでしたが、いかがでしたでしょうか?気になる点やご質問、さらに「この研究室ではどんなことをしているの?」「この研究についてもっと知りたい!」などご関心がありましたら、理学部公式Xまでご連絡いただけると嬉しく思います^^

 ありがとうございました。

(文・大久保結実)

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