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科学コミュニケーターに必要なもの

マラヴィカ・グルラジ

皆さんはじめまして。私の名前はマラヴィカ。出身はインド。みんなに「マル」というあだ名でよばれていて、最近は日本のミステリー小説に夢中になっている。

高校生のころから生物学に関心があり、大学での専攻もバイオテクノロジーを選んだ。勉強をしているうちに体内時計の研究にひかれるようになり、学部卒業後に名古屋大学で大学院生としての生活を始め、クラミドモナスというとても小さい、約100分の1ミリの単細胞の生物を実験材料に使って、体内時計の「リセット」が光に誘導される現象のメカニズムを調べだした。この研究で体内時計の光によるリセットにかかわっている遺伝子の一つを同定することに成功し、その遺伝子の性質と、その遺伝子からつくられるたんぱく質の性質を調べた。もちろん、このような研究を面白く感じたが、研究について人と話すことをさらに面白く感じるようになった。そのことがきっかけで今の仕事にたどり着いた。

現在、私は東京にある日本科学未来館で科学コミュニケーターとして働いている。未来館では最先端の科学技術と現代の科学研究が紹介されている。そして私の仕事は、その科学と一般の人の間の距離を狭めることである。この目標を果たすためには、科学的な概念をだれにでもわかるように説明することが重要である。それに加え、未来館では来館者との対話をとても大事にしている。たとえば、来館者の話を聞き、展示の内容が来館者にとってどういう意味をもつのか、今の先端技術と現代科学が来館者の実際の生活の中でどんな役割を果たすのかを聞き出すのも私たちの仕事の一つだと考えている。

このようなことはほぼ毎日の出来事である。しかし、科学コミュニケーターは対話と展示の説明以外にもいろんな方法で来館者を科学とつなげようとしている。たとえば「科学コミュニケータートーク」という対話集会で来館者に現代科学の課題についてインタラクティブに伝えて、来館者といっしょになって課題について考えることもある。コミュニティといっしょに研究を進めることを希望する研究者もいるので、来館者とつなぐイベントを実施することもある。ここで改めて、イベント、トーク、解説とは関係なく来館者に一番伝えたいメッセージをはっきりさせることがとても大事だと気づくことになる。当たり前のことに思うかもしれないが、私がこの仕事を経験するうちに改めて気づいた大事なことだ。

20234月から勤務しているが、それからの1年間はとてもにぎやかだった。入職したきっかけと今の仕事を楽しく感じている理由を振り返って比較をしてみた。「研究や科学について語り合う」という動機自体はあまり変わっていないが、いつの間にかいろいろ追加されていた。仕事で科学の最先端の出来事を知ることができ、今まであまり注目していなかった課題や問題について考えるきっかけにもなっている。身近なことにもっと興味を感じるようになった。「なにが」「なぜ」「どうやって」を、前よりも自分に問うようになった。身のまわりの世界に感じる自分の好奇心が強まった感じがする。しかし、一番大事な気づきは「コミュニケーターは一方的に説明するよりは人と対話する」ということであった。まだまだこれから学ぶことがあると考えると希望は大きくふくらむ。

マラヴィカ・グルラジ

日本科学未来館 科学コミュニケーション室 科学コミュニケーター

インド生まれ。2016年インドのR.V.College of Engineering(バイオテクノロジー専攻)卒業。2018年名古屋大学大学院理学研究科生命理学専攻博士前期課程修了。2023年名古屋大学大学院理学研究科生命理学専攻博士後期課程修了。同年4月に日本科学未来館に入職し、科学コミュニケーターに従事。

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