私が初めて「生き物の形(カタチ)はおもしろい」と感じたのは、小学生の頃に参加した1週間の自然体験教室での経験である。自然観察と発表を行うイベントで、ノーベル賞受賞者の白川英樹先生とともに、泥まみれになりながらオニヤンマを追いかけた。全く追いつけず、最後は待ち伏せによってようやく捕まえたとき、「なぜこれほど小さな体なのに、自分より速く飛べるのか」という素朴な疑問が生まれた。この驚きこそが、生き物のカタチに興味を持つ原点となった。
大学で生き物のカタチと機能の関係を研究するようになっても、原動力は「おもしろい」という感覚に尽きる。ただ、その「おもしろさ」はより深いものへと変化していった。生物のカタチは、機能的な合理性によって説明されると考えられがちだが、実際には合理性だけでは説明できないカタチが多い。意味があるようで説明しきれないカタチの多様性への戸惑いと、それでも理由があるはずだという期待が同時に共存し、この相反する感覚こそが今の私にとって最大の「おもしろさ」となっている。現在研究しているイルカやクジラの背ビレも、その延長にある。一般には背ビレが安定性に寄与すると考えられている一方、スナメリやセミイルカのように背ビレを持たずに高い遊泳能力を示す種も存在する。それでは背ビレとはいったい何を意味するカタチなのか。このカタチと機能の関係には、単純なようで深い溝がある。
私は、この深い溝に卒業研究からのぞき込んできた。卒業研究では、水族館で背ビレの有無が胸ビレの遊泳姿勢にどのような違いを生むのかに注目し、観察を続けた。しかし、ガラス越しの観察には限界があり、博士前期課程では国立科学博物館(筑波大学連携大学院)のチームに所属し、日本各地で座礁したイルカやクジラを直接計測した。そこで、種ごとに背ビレや胸ビレのカタチがどれほど異なるのかを体系的に理解することができた。
名古屋大学での博士後期課程では、3次元測量やCTスキャンを積極的に導入し、背ビレを外側のカタチから内部構造まで立体的に解析している。座礁現場で得た立体データをもとに3Dモデルを作成し、コンピューター上で遊泳を再現して背ビレの安定性への寄与を検証している。また、死体をCTスキャンし、背ビレ内部の血管構造に着目することで、生理学的な機能の解析にも取り組んでいる。こうした複合的な解析により、背ビレは複数の機能が段階的に統合しながら進化してきたという可能性が見え始めている。しかし同時に、「背ビレとは何か」という問いは、「生き物にとってのヒレとは何だろうか」という、より根源的な問いと拡張している。イルカやクジラという対象だけでは渡りきれない、より深い溝——あるいは海峡が、目の前に広がりつつある。
このように研究内容は年々広がり続けているが、その中心にあるのは小学生の頃に抱いた「生き物のカタチはおもしろい」という直感である。当時の素朴な驚きが、生き物の説明しきれないカタチの奥行きを追う探究心に変わっただけである。やはり生き物のカタチはおもしろいのである。

