分子はあらゆる自然現象・社会生活に関わる物質である。小さな分子の構造を変換したり、分子同士を連結させたりすることで標的分子を合成する『分子合成化学』は有機化学の根幹である。200年を超える歴史をもち、溶媒中で行われる溶液化学として数多の有機反応が開発されてきた。溶解している分子は多くの溶媒と相互作用している、すなわち溶媒和されている状態にあり、反応を起こしやすいからである。また、単一分子としての性質を調べやすいため、多くの構造解析・性質評価も溶液として行われる。発展を遂げた現在の有機化学では、魅力的な合成ターゲットはより複雑な、もしくは巨大な構造をもつものへとシフトしつつある。その中での課題の一つが、溶媒に対する分子の溶解性の獲得である。例えば、ナノグラフェンに代表される、電子材料として活用されている拡張型π共役材料は自己で凝集しやすい性質をもち、溶媒に対する溶解性が極めて低い。そのような難溶性分子は有機反応を起こしにくく、性質評価も困難となる。合成ターゲットのみならず、その途中の合成段階の分子の溶解性が低い場合も多く、それ以上合成を進めることができない。いわゆるデッドエンドとなる(図1)。

図1 分子合成における課題:難溶性問題
ナノグラフェンなどの拡張型π共役材料は自己で凝集しやすく、溶液中で自在に合成することが困難である。



