1992年、当時京都大学の4回生だった私は理学部物理学教室の宇宙線研究室にて藤原顕先生(当時助手。後にはやぶさ初号機のサイエンスマネージャー)の下で卒論に取り組んでいた。時間があるとよく地質学鉱物学教室の鉱物学研究室に遊びにいっていた。北村雅夫先生(当時助教授。現京都大学名誉教授)と話していたところ、「コンドリュールはな、微惑星が爆発してできるんだ」と力説された。その当時は何のことかよくわからなかったが、コンドリュールというのは直径1mm程度の球形粒子(ちょうど雨粒ほど)であり、ある種の隕石に多く含まれ(体積の80%以上を占めることもある)、太陽系が形成され始めたころ(約46億年前)に生成したということを大学院に進学してから知った。岩石が溶融し表面張力で球形になった、ということは研究者の間で合意されていたものの、どのような加熱イベントでコンドリュールが形成されたのかは昔から大きな謎で、さまざまなアイデアが提案されていた。北村先生の説もその一つだったわけである。
Frontrunners
原始太陽系に降っていた溶岩の雨
城野 信一

コンドリュールとの出会い
原始太陽系での加熱イベント 太陽系が形成されたころにどのような加熱イベントがあったのだろうか。有力な説はかねてから二つ提案されていた。一つは「原始太陽系円盤に発生した衝撃波」であり、もう一つは「微惑星の相互衝突」である。衝撃波説においては、太陽系形成時には広く存在していたガスに何らかの要因で衝撃波が発生する。コンドリュールの材料がガスとともに衝撃波を通過すると、ガスは急速に減速する一方で固体であるコンドリュールの材料はすぐには停止できず、ガスとの摩擦で溶けるまで加熱される。このモデルは詳細に検討され、条件を満たせばコンドリュールのさまざまな特徴を再現しうることが明らかになったが、ちょうど良い条件の範囲が狭いことが問題だった。温度が上昇しすぎて岩石が完全に蒸発してしまったり、逆に温度が上がらなかったりする。
惑星のような大きな天体は微惑星とよばれる小天体が衝突合体を繰り返して形成される。したがって微惑星の衝突は惑星系の形成で必ず発生した加熱イベントである。ここでの問題点は、微惑星は原始太陽系円盤のガスの中を運動するために、ガスとの摩擦によって軌道が円に近くなってしまうことである。この場合での衝突は低速となってしまい岩石を溶かすことができない。さらに、仮に溶かすことができたとしても溶岩を直径1mm程度まで粉砕することが難しい。溶岩は原始太陽系円盤のガス中に放出される。もしガスの密度が高ければ、ガス中を移動する流体は不安定となって粉砕されるが、原始太陽系円盤のガスの密度はそこまでは高くない。
太陽系が形成されたころにどのような加熱イベントがあったのだろうか。有力な説はかねてから二つ提案されていた。一つは「原始太陽系円盤に発生した衝撃波」であり、もう一つは「微惑星の相互衝突」である。衝撃波説においては、太陽系形成時には広く存在していたガスに何らかの要因で衝撃波が発生する。コンドリュールの材料がガスとともに衝撃波を通過すると、ガスは急速に減速する一方で固体であるコンドリュールの材料はすぐには停止できず、ガスとの摩擦で溶けるまで加熱される。このモデルは詳細に検討され、条件を満たせばコンドリュールのさまざまな特徴を再現しうることが明らかになったが、ちょうど良い条件の範囲が狭いことが問題だった。温度が上昇しすぎて岩石が完全に蒸発してしまったり、逆に温度が上がらなかったりする。
惑星のような大きな天体は微惑星とよばれる小天体が衝突合体を繰り返して形成される。したがって微惑星の衝突は惑星系の形成で必ず発生した加熱イベントである。ここでの問題点は、微惑星は原始太陽系円盤のガスの中を運動するために、ガスとの摩擦によって軌道が円に近くなってしまうことである。この場合での衝突は低速となってしまい岩石を溶かすことができない。さらに、仮に溶かすことができたとしても溶岩を直径1mm程度まで粉砕することが難しい。溶岩は原始太陽系円盤のガス中に放出される。もしガスの密度が高ければ、ガス中を移動する流体は不安定となって粉砕されるが、原始太陽系円盤のガスの密度はそこまでは高くない。
水を含んだ微惑星の衝突 時は流れて2017年、名大で私は惑星形成の初期段階の研究をしており、コンドリュールのことはすっかり忘れていた。ある日、息子のピアノ発表会にて演奏を聴いていた時「もし微惑星が水を含んでいたら、衝突後どうなるだろう」と思いついた。もし岩石が溶けるほどに高速で衝突がおこり(図1)、水が含まれていたら水は急激に膨張して溶岩を吹き飛ばすのではないか。これによってコンドリュールが説明できるのでないか。このモデルの検討をすぐに始めた。隕石の一部は水を含んでいることは知られていたし、小惑星の観測からも含水鉱物が含まれていることが言われていた。このことは後にはやぶさ2が回収したサンプルで実証される。また、木星が形成される、その大きな重力によって周囲の微惑星の軌道が大きく変化、微惑星同士の高速衝突が発生しうる。

図1 微惑星の衝突シミュレーション
半径50kmの微惑星が半径200kmの微惑星に上から5km/秒の速度で衝突する。左から衝突開始時、25秒後、50秒後、75秒後。赤い部分が溶融している。
コンドリュールの直径は簡単に計測することができる。一方で、顕微鏡で内部を観察すると鉱物がつくるさまざまな組織を見ることができる(メイン図版)。岩石を溶融してさまざまな速度で冷却し、同じような組織になる冷却速度を探すと、10-1000度/時となることが以前から知られていた。よってこのモデルの一番のポイントは、直径が0.1-2mm程度、冷却速度が10-1000度/時となることを説明できるかどうか、である。数値シミュレーション(図2)を行ったところ、さまざまなパラメータで直径と冷却速度がほぼこの範囲となることが明らかとなった(図3)。これは、膨張する水蒸気の密度が原始太陽系円盤のガスに比べて遥かに高密度であるため、効率よく溶岩を粉砕できるからである。太陽系で最も質量が大きい惑星である木星が形成された時、周囲を漂っていた水を含んだ多数の微惑星が木星の強い重力によって軌道を乱され、相互に高速衝突をすることでコンドリュールは必然的に生成されることになる。論文[1]として出版されるまでに結局8年かかった。

図2 コンドリュール形成の数値シミュレーションの模式図
a:半径Rplaの微惑星表面に、厚さL0の溶岩層が形成される。b:ガスの膨張速度Vgas、コンドリュールの移動速度Vmelt、コンドリュールの直径D、および冷却速度をシミュレーションにより求める。

図3 コンドリュールの直径と冷却速度のパラメータ依存性
a、d:揮発性物質(水など)の割合(衝突する微惑星に含まれる質量比)、b、e:微惑星表面に形成される溶岩層の厚さ(km)、c、f:揮発性物質の分子量(水なら18)。点は数値シミュレーションの結果、実線は方程式を近似的に解いた解析解。
時は流れて2017年、名大で私は惑星形成の初期段階の研究をしており、コンドリュールのことはすっかり忘れていた。ある日、息子のピアノ発表会にて演奏を聴いていた時「もし微惑星が水を含んでいたら、衝突後どうなるだろう」と思いついた。もし岩石が溶けるほどに高速で衝突がおこり(図1)、水が含まれていたら水は急激に膨張して溶岩を吹き飛ばすのではないか。これによってコンドリュールが説明できるのでないか。このモデルの検討をすぐに始めた。隕石の一部は水を含んでいることは知られていたし、小惑星の観測からも含水鉱物が含まれていることが言われていた。このことは後にはやぶさ2が回収したサンプルで実証される。また、木星が形成される、その大きな重力によって周囲の微惑星の軌道が大きく変化、微惑星同士の高速衝突が発生しうる。

図1 微惑星の衝突シミュレーション
半径50kmの微惑星が半径200kmの微惑星に上から5km/秒の速度で衝突する。左から衝突開始時、25秒後、50秒後、75秒後。赤い部分が溶融している。
コンドリュールの直径は簡単に計測することができる。一方で、顕微鏡で内部を観察すると鉱物がつくるさまざまな組織を見ることができる(メイン図版)。岩石を溶融してさまざまな速度で冷却し、同じような組織になる冷却速度を探すと、10-1000度/時となることが以前から知られていた。よってこのモデルの一番のポイントは、直径が0.1-2mm程度、冷却速度が10-1000度/時となることを説明できるかどうか、である。数値シミュレーション(図2)を行ったところ、さまざまなパラメータで直径と冷却速度がほぼこの範囲となることが明らかとなった(図3)。これは、膨張する水蒸気の密度が原始太陽系円盤のガスに比べて遥かに高密度であるため、効率よく溶岩を粉砕できるからである。太陽系で最も質量が大きい惑星である木星が形成された時、周囲を漂っていた水を含んだ多数の微惑星が木星の強い重力によって軌道を乱され、相互に高速衝突をすることでコンドリュールは必然的に生成されることになる。論文[1]として出版されるまでに結局8年かかった。

図2 コンドリュール形成の数値シミュレーションの模式図
a:半径Rplaの微惑星表面に、厚さL0の溶岩層が形成される。b:ガスの膨張速度Vgas、コンドリュールの移動速度Vmelt、コンドリュールの直径D、および冷却速度をシミュレーションにより求める。

図3 コンドリュールの直径と冷却速度のパラメータ依存性
a、d:揮発性物質(水など)の割合(衝突する微惑星に含まれる質量比)、b、e:微惑星表面に形成される溶岩層の厚さ(km)、c、f:揮発性物質の分子量(水なら18)。点は数値シミュレーションの結果、実線は方程式を近似的に解いた解析解。
30年後の偶然 この論文のプレスリリースを出すにあたって、コンドリュールの写真が必要になった。私の専門は数値シミュレーションなので、コンドリュールの実物は持っていない。そこで京都大学の三宅亮教授にメールを書いたところ、すぐに何枚か写真(メイン図版)を送ってくれた。さらに、冒頭の北村先生が似たようなことを前に言っていた、と論文[2]を送ってくれた。北村先生のアイデアも、水を含んだ微惑星の相互衝突だったことを知った。鉱物学者の視点から、岩石の融点を低下させるためと、さまざまな酸化還元状態を実現させるために水を微惑星に含ませていた。ほぼ30年ぶりに同じアイデアがまた世に出たことになる。このアイデアが諸説あるうちの一つとなってしまうのか、それとも検証に耐えていくのか、これからが楽しみである。
この論文のプレスリリースを出すにあたって、コンドリュールの写真が必要になった。私の専門は数値シミュレーションなので、コンドリュールの実物は持っていない。そこで京都大学の三宅亮教授にメールを書いたところ、すぐに何枚か写真(メイン図版)を送ってくれた。さらに、冒頭の北村先生が似たようなことを前に言っていた、と論文[2]を送ってくれた。北村先生のアイデアも、水を含んだ微惑星の相互衝突だったことを知った。鉱物学者の視点から、岩石の融点を低下させるためと、さまざまな酸化還元状態を実現させるために水を微惑星に含ませていた。ほぼ30年ぶりに同じアイデアがまた世に出たことになる。このアイデアが諸説あるうちの一つとなってしまうのか、それとも検証に耐えていくのか、これからが楽しみである。
- メイン図版説明
- アエンデ隕石に含まれるコンドリュールの顕微鏡写真。直径約1mm。三宅亮教授(京都大学)提供。
参考文献
- S. Sirono and D. Turrini, Chondrule formation by collisions of planetesimals containing volatiles triggered by Jupiter’s formation, Scientific Reports 15, 30919 (2025)
- M. Kitamura and A. Tsuchiyama, Collision of icy and slightly differentiated bodies as an origin for unequilibrated ordinary chondrites, in Chondrules and the protoplanetary disk (eds. R. H. Hewins, R. H. Jones & E. R. D. Scott), pp 319-326. Cambridge University Press (1996)

城野 信一
地球惑星科学科 大学院環境学研究科地球環境科学専攻准教授
1971年埼玉県大宮市(現さいたま市)生まれ。1993年京都大学理学部卒業。1998年北海道大学大学院理学研究科博士課程修了。神戸大学(学振特別研究員)、名古屋大学助手を経て2014年より現職。専門は惑星科学、特に惑星系形成理論。