「岩石」と聞くと何を思い浮かべるだろうか。花崗岩や玄武岩という名前は何となく聞き覚えがあるのではないだろうか。これらは地球内部でマグマが冷え固まった火成岩という種類の岩石である。泥岩や砂岩といった岩石も、名前を聞けばどんな岩石か何となくイメージできるのではないだろうか。これらは、泥や砂が堆積して固まった堆積岩という種類の岩石である。では、「変成岩」はどんな岩石だろうか。おそらく、中学や高校の地学ではあまりなじみがなくピンとこない岩石ではないだろうか。しかし、変成岩は地球内部で数百万年から数億年というとてつもなく長い時間スケールで起こっているダイナミックな活動によって、変形したり美しい鉱物が成長したりした(私にとっては)特別な岩石である。私はこの「変成岩」を用いて、地球内部の様子を解明することを目的とし、研究を行っている。
Frontrunners
岩石に記録された地球の営みを探る
纐纈 佑衣

地球深部の様子を記録した「変成岩」
変成岩が形成される場 では、具体的に変成岩はどのような場所でどのように形成されるだろうか。変成岩は主に地球表面を覆うプレートの境界である沈み込み帯や大陸衝突帯で形成される。日本は現在4つのプレートに囲まれており、海洋プレートが大陸プレートの下に沈み込んでいる(図1)。地球内部は、深い場所に行くほど温度と圧力が上昇する。沈み込み帯の深部では、プレートの運動によって地球内部に持ち込まれた岩石が高温・高圧環境下にさらされることで、新しい鉱物が成長する。また、プレート境界ではプレートの運動方向に沿って強い応力がかかるため、層状(ミルフィーユ状)に変形する(図2)。このように、地球内部の高温・高圧・高応力環境下にさらされた岩石は元の姿を変えて新しい「変成岩」へとメタモルフォーゼするのである。

図1 沈み込み帯の模式図
海洋プレートは大陸プレートよりも密度が大きいため、境界である海溝から地球深部へと沈み込む。海洋プレートの沈み込みに伴って地球深部に持ち込まれた岩石は高温・高圧・高応力環境下にさらされ「変成岩」が形成される。

図2 沈み込む前の岩石(左)と沈み込み帯で変成した変成岩(中・右)
左から順に、玄武岩[長野県産]、緑色片岩[高知県産]、エクロジャイト[中国産]。海洋地殻を構成する玄武岩質な岩石は、プレート運動によって海溝から地球内部に沈み込む。約30kmよりも深部にもたらされると、緑色の鉱物(緑泥石、角閃石、緑簾石など)が成長し、層状(ミルフィーユ状)の構造を持つ緑色片岩が形成される。さらに深部(約50km以上)になると、緑色のオンファス輝石と赤色のざくろ石を含むエクロジャイトが形成される。
地球内部で形成された変成岩の多くは、プレートの運動によってさらに深部へと運び込まれて地球内部を循環する運命をたどると考えられているが、プレートの運動に特別なイベントが起こると地表に露出することがある。この特別なイベントによって地表に露出した岩石は、私たち人類が直接アクセスすることのできない地球内部の様子を記録した貴重な試料として研究に活用することができる。残念ながら、多くの変成岩は地表に上昇するまでの二次的な変成・変形イベントを被っており、沈み込み始めや最も深い場所で成長した鉱物や組織は消えてしまっていることが多い。しかし、変成岩が露出している野外において、丹念に岩石を観察して試料を採取することで、上昇による上書きを免れた保存状態のよい“新鮮”な変成岩を探し出すことが可能である。
では、具体的に変成岩はどのような場所でどのように形成されるだろうか。変成岩は主に地球表面を覆うプレートの境界である沈み込み帯や大陸衝突帯で形成される。日本は現在4つのプレートに囲まれており、海洋プレートが大陸プレートの下に沈み込んでいる(図1)。地球内部は、深い場所に行くほど温度と圧力が上昇する。沈み込み帯の深部では、プレートの運動によって地球内部に持ち込まれた岩石が高温・高圧環境下にさらされることで、新しい鉱物が成長する。また、プレート境界ではプレートの運動方向に沿って強い応力がかかるため、層状(ミルフィーユ状)に変形する(図2)。このように、地球内部の高温・高圧・高応力環境下にさらされた岩石は元の姿を変えて新しい「変成岩」へとメタモルフォーゼするのである。

図1 沈み込み帯の模式図
海洋プレートは大陸プレートよりも密度が大きいため、境界である海溝から地球深部へと沈み込む。海洋プレートの沈み込みに伴って地球深部に持ち込まれた岩石は高温・高圧・高応力環境下にさらされ「変成岩」が形成される。

図2 沈み込む前の岩石(左)と沈み込み帯で変成した変成岩(中・右)
左から順に、玄武岩[長野県産]、緑色片岩[高知県産]、エクロジャイト[中国産]。海洋地殻を構成する玄武岩質な岩石は、プレート運動によって海溝から地球内部に沈み込む。約30kmよりも深部にもたらされると、緑色の鉱物(緑泥石、角閃石、緑簾石など)が成長し、層状(ミルフィーユ状)の構造を持つ緑色片岩が形成される。さらに深部(約50km以上)になると、緑色のオンファス輝石と赤色のざくろ石を含むエクロジャイトが形成される。
地球内部で形成された変成岩の多くは、プレートの運動によってさらに深部へと運び込まれて地球内部を循環する運命をたどると考えられているが、プレートの運動に特別なイベントが起こると地表に露出することがある。この特別なイベントによって地表に露出した岩石は、私たち人類が直接アクセスすることのできない地球内部の様子を記録した貴重な試料として研究に活用することができる。残念ながら、多くの変成岩は地表に上昇するまでの二次的な変成・変形イベントを被っており、沈み込み始めや最も深い場所で成長した鉱物や組織は消えてしまっていることが多い。しかし、変成岩が露出している野外において、丹念に岩石を観察して試料を採取することで、上昇による上書きを免れた保存状態のよい“新鮮”な変成岩を探し出すことが可能である。
深部まで沈み込んだ変成岩「エクロジャイト」 分布している地質帯である。今から1億年ほど昔は、日本の骨格はまだでき上がっておらず、アジア大陸の東縁にイザナギプレートというプレートが地球内部に沈み込んでいた。このプレート運動によって地球内部に運び込まれた岩石が、およそ30kmよりも深い場所で変成作用を受けて大規模な変成帯が形成された後、海嶺の接近によって熱異常が起こり、浮力が働くことによって地表に露出したと考えられている。
三波川帯の中でも、四国中央市の別子地域には、50~80km程度のかなり深い場所まで沈み込んで変成作用を受けた岩石が露出している。沈み込み帯において、約50kmよりも深い場所で変成作用を受けた変成岩には、「オンファス輝石」という緑色の美しい鉱物が成長することがある。また、そのような岩石には、「ざくろ石」という赤色の粗粒な鉱物も含まれている。これら、「オンファス輝石」と「ざくろ石」という鉱物を多く含む変成岩のことをエクロジャイトと呼ぶ(図2・図3)。四国別子地域の山中には、このエクロジャイトという岩石が広く分布している。二次的な改変を受けていない“新鮮”なエクロジャイトを野外で探し出して研究室に持ち帰り、さまざまな分析を行うことで、沈み込み帯深部の情報を抽出することが可能になる。

図3 四国中央市別子地域の三波川帯に産するエクロジャイト
(左上)山頂付近に露出する石英エクロジャイト。ここの岩石を採取するために、山道を歩いて3時間ほど登る必要がある。(右上)石英エクロジャイトの露頭。小さな祠が祀られている。(左下)ふもとの町に展示されているエクロジャイトの石碑。2001年にこの地域で行われた第6回国際エクロジャイト会議を記念してつくられたもの。(右下)石碑の近接写真。赤い粒はざくろ石、薄い緑色の部分にはオンファス輝石が含まれる。濃い緑色の部分にはオンファス輝石が変質した角閃石という鉱物が含まれる。
分布している地質帯である。今から1億年ほど昔は、日本の骨格はまだでき上がっておらず、アジア大陸の東縁にイザナギプレートというプレートが地球内部に沈み込んでいた。このプレート運動によって地球内部に運び込まれた岩石が、およそ30kmよりも深い場所で変成作用を受けて大規模な変成帯が形成された後、海嶺の接近によって熱異常が起こり、浮力が働くことによって地表に露出したと考えられている。
三波川帯の中でも、四国中央市の別子地域には、50~80km程度のかなり深い場所まで沈み込んで変成作用を受けた岩石が露出している。沈み込み帯において、約50kmよりも深い場所で変成作用を受けた変成岩には、「オンファス輝石」という緑色の美しい鉱物が成長することがある。また、そのような岩石には、「ざくろ石」という赤色の粗粒な鉱物も含まれている。これら、「オンファス輝石」と「ざくろ石」という鉱物を多く含む変成岩のことをエクロジャイトと呼ぶ(図2・図3)。四国別子地域の山中には、このエクロジャイトという岩石が広く分布している。二次的な改変を受けていない“新鮮”なエクロジャイトを野外で探し出して研究室に持ち帰り、さまざまな分析を行うことで、沈み込み帯深部の情報を抽出することが可能になる。

図3 四国中央市別子地域の三波川帯に産するエクロジャイト
(左上)山頂付近に露出する石英エクロジャイト。ここの岩石を採取するために、山道を歩いて3時間ほど登る必要がある。(右上)石英エクロジャイトの露頭。小さな祠が祀られている。(左下)ふもとの町に展示されているエクロジャイトの石碑。2001年にこの地域で行われた第6回国際エクロジャイト会議を記念してつくられたもの。(右下)石碑の近接写真。赤い粒はざくろ石、薄い緑色の部分にはオンファス輝石が含まれる。濃い緑色の部分にはオンファス輝石が変質した角閃石という鉱物が含まれる。
変成岩が経験した「温度・圧力」を測る 変成岩がどのような環境で形成されたかを知る上で鍵となる情報として、「温度」と「圧力」がある。変成岩の中に含まれる鉱物の中でも固溶体と呼ばれる鉱物は、その組成情報を調べることで、成長したときの温度や圧力を熱力学的に計算することが可能である(図4)。また、分光法を用いて温度・圧力を見積もる新たな手法の開発・改良も進めている(図5)。私はこれらの手法を組み合わせることによって、変成岩に含まれる鉱物がどのくらいの深さでどのようなプレートの運動場において成長したのかを推定し、三波川帯の沈み込みから上昇に至る変成史を明らかにしようとしている。

図4 ざくろ石のカルシウム(左)とマンガン(右)の組成マッピング像
電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)を用いて計測したざくろ石の組成の分布図。暖色系ほど元素の濃度が高いことを意味する。ざくろ石は結晶格子内に異なる原子が入ることができる固溶体を形成する。プレートの沈み込みによって地球深部に行くほど温度と圧力が上昇し、ざくろ石の結晶格子に入ることのできる安定な原子の種類が変化する。ざくろ石の固溶体組成を用いて熱力学計算を行うことによって、ざくろ石が成長するときに経験した温度・圧力状態を推定することができる。

図5 変成岩が経験した温度・圧力を見積もる手法
(左)ホス‐包有物残留圧力計。ざくろ石中に含まれる0.01 mm程度の微小な石英包有物にかかっている応力を、スペクトルのピーク位置のシフトから評価し、ざくろ石中に石英が取り込まれたときの圧力条件を推定する手法。(右)炭質物ラマン温度計。岩石に含まれる炭素を含む炭質物をラマン分光分析し、得られたスペクトルの面積比や半値幅から結晶化度を評価することで温度に換算する手法。
変成岩がどのような環境で形成されたかを知る上で鍵となる情報として、「温度」と「圧力」がある。変成岩の中に含まれる鉱物の中でも固溶体と呼ばれる鉱物は、その組成情報を調べることで、成長したときの温度や圧力を熱力学的に計算することが可能である(図4)。また、分光法を用いて温度・圧力を見積もる新たな手法の開発・改良も進めている(図5)。私はこれらの手法を組み合わせることによって、変成岩に含まれる鉱物がどのくらいの深さでどのようなプレートの運動場において成長したのかを推定し、三波川帯の沈み込みから上昇に至る変成史を明らかにしようとしている。

図4 ざくろ石のカルシウム(左)とマンガン(右)の組成マッピング像
電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)を用いて計測したざくろ石の組成の分布図。暖色系ほど元素の濃度が高いことを意味する。ざくろ石は結晶格子内に異なる原子が入ることができる固溶体を形成する。プレートの沈み込みによって地球深部に行くほど温度と圧力が上昇し、ざくろ石の結晶格子に入ることのできる安定な原子の種類が変化する。ざくろ石の固溶体組成を用いて熱力学計算を行うことによって、ざくろ石が成長するときに経験した温度・圧力状態を推定することができる。

図5 変成岩が経験した温度・圧力を見積もる手法
(左)ホス‐包有物残留圧力計。ざくろ石中に含まれる0.01 mm程度の微小な石英包有物にかかっている応力を、スペクトルのピーク位置のシフトから評価し、ざくろ石中に石英が取り込まれたときの圧力条件を推定する手法。(右)炭質物ラマン温度計。岩石に含まれる炭素を含む炭質物をラマン分光分析し、得られたスペクトルの面積比や半値幅から結晶化度を評価することで温度に換算する手法。
変成岩から垣間見えるもの 三波川帯の変成史については、多くの研究者によってさまざまな角度から検証が進んでいる。私はその中でも特に高精度な温度と圧力の記録を明らかにすることによって、沈み込み帯深部で起こっている物質移動や地震・火山活動のメカニズム解明などにつなげたいと考えている。三波川帯は過去の沈み込み帯の化石のようなものであるが、それを活用することによって、現在、日本を含むプレート境界の深部で起こっているダイナミックな物質循環や地質学的イベントのメカニズムを明らかにすることにつながる。地球の上では小さな存在であり、長くても100年ほどしか生きられない人間が、数百万年から数億年の気の遠くなるようなダイナミックな地球の営みの一部を変成岩を通じて垣間見ることができると考えるとワクワクするのは私だけだろうか。この変成岩に対するワクワクを大切にしながら、今後も研究を続けていきたい。
三波川帯の変成史については、多くの研究者によってさまざまな角度から検証が進んでいる。私はその中でも特に高精度な温度と圧力の記録を明らかにすることによって、沈み込み帯深部で起こっている物質移動や地震・火山活動のメカニズム解明などにつなげたいと考えている。三波川帯は過去の沈み込み帯の化石のようなものであるが、それを活用することによって、現在、日本を含むプレート境界の深部で起こっているダイナミックな物質循環や地質学的イベントのメカニズムを明らかにすることにつながる。地球の上では小さな存在であり、長くても100年ほどしか生きられない人間が、数百万年から数億年の気の遠くなるようなダイナミックな地球の営みの一部を変成岩を通じて垣間見ることができると考えるとワクワクするのは私だけだろうか。この変成岩に対するワクワクを大切にしながら、今後も研究を続けていきたい。

纐纈 佑衣
地球惑星科学科 大学院環境学研究科地球環境科学専攻准教授
1986年岐阜県生まれ。2008年名古屋大学理学部地球惑星科学科卒業。2010年名古屋大学大学院環境学研究科博士課程前期課程修了。2013年名古屋大学大学院環境学研究科博士課程後期課程修了、博士(理学)。2013年から2015年まで、東京大学理学系研究科地殻化学実験施設にて日本学術振興会特別研究員(PD)、2015年より名古屋大学助教、2020年より名古屋大学講師を経て、2024年より現職。