数学の問題としては増大数列の一般項が気になる。gsiの配位数列の一般項は、$n \ge 4$において
\[
s(n)=
\begin{cases}
3n^2 + 1 & (n \equiv 0, 1 \mod 3) \\
3n^2 + 2 & (n \equiv 2 \mod 3)
\end{cases}
\]
で与えられる($n=2,3$は例外項)。このように、有限項の例外を除き、周期的な多項式で表されるような関数を準多項式型の関数とよぶ。
一般的に次のことを論文[3]で証明した。
定理. 周期グラフの増大数列は準多項式型になる。
この事実自体は、1996年に論文[2]で予想されていたものである。この定理の証明には、群や環といった代数学の知識が使われている。元の問題と一見関係のないように思える代数学を利用して「うまく数える」ことができた点を非常に気に入っている。
代数学が証明にどのように登場するかを簡単に説明したい。具体的な$1$次元の周期グラフで考えてみよう。整数全体を頂点とし、各頂点からは$\pm 3$の方向と$\pm 5$の方向に計$4$本の辺が出ているような周期グラフを考える。この場合、増大数列$s(d)$は「$-5, -3, 3, 5$を使った$d$個の足し算で書くことのできる数であって、$d-1$個以下の足し算で書くことができないもの」の個数に他ならない。これを「代数学的に数える」方法を説明したい。まず、$4$つの数$-5, -3, 3, 5$に対応して、(第$1$成分に$1$を追加して得られる)$4$つのベクトル$(1, -5), (1, -3), (1, 3), (1, 5)$を考えることがポイントとなる。これらに$(1,0)$を加えた$5$つのベクトルを使った有限個の和で書けるようなベクトル全体を$B$と表すことにする。また、正の整数$d$に対し、$B$の元であって第$1$成分が$d$となるもの全体を$B_d$で表し、$b(d)$で$B_d$の元の個数を表すことにする。$B_d$や$b(d)$は何を表しているだろうか。少しややこしいかもしれないが、$B_d$の第$2$成分に、「$-5, -3, 3, 5$を使った$d$個以下の足し算で書くことのできる数」がすべて現れることが分かると思う。従って、$b(d)$はそのような数の個数に他ならず、増大数列$s(d)$は$s(d) = b(d) – b(d-1)$と表すことができる。よって、$s(d)$が準多項式型であることを示すためには、$b(d)$が準多項式型であることを示せば十分である。ここまで来ると、代数学の一般論から証明を完結することができる。$B$のように、足し算の操作で閉じている集合はモノイドとよばれる代数学的な対象である。そして、$B_d$の元の数$b(d)$が準多項式型になることは、次のような代数学の一般論から証明できるのだ。
(参考)ヒルベルト級数の理論. $n$を正の整数とする。${\bf a}_1, \ldots , {\bf a}_{\ell}$を$n+1$次元のベクトルとし、それらの第$1$成分はすべて正の整数であると仮定する。${\bf a}_1, \ldots , {\bf a}_{\ell}$を使った有限個の和で書けるようなベクトル全体を$B$と表す。また、正の整数$d$に対し、$B$の元であって第$1$成分が$d$となるもの全体を$B_d$で表し、$b(d)$で$B_d$の元の個数を表すことにする。このとき、$b(d)$は準多項式型となる。
$2$次元以上の周期グラフであっても、すべての頂点から同じ方向に辺が出ているケースでは、上の議論が同じように機能する。一般の周期グラフについては、頂点の種類によってそこから出ている辺の方向が異なることがあるため、$B$のようなモノイドが対応しない。そのため、組合せ論的なアイデアがもう一つ必要となる。